なぜ「旅籠」なのか
一人の旅人が、長い旅の途中で小さな宿にたどり着きます。宿の名は「旅籠PCC」。迎える女将は、旅人に道を教えたり、地図を渡したりはしません。安心して自分と向き合える一夜をともにつくり、旅人自身が次の道を選べるよう関わります。
この比喩では、コンピテンシー3がチェックイン、4・5が宿そのもの、6と7が夜の対話、8が翌朝のチェックアウトとしてつながっていきます。
第一幕 「今夜、どこへ向かいたいのですか?」
コンピテンシー3:合意の確立と維持
旅人は言います。「ずっと旅を続けてきたんですが、この先、どちらへ進めばいいのか分からなくなってしまって……」
女将は、すぐに道を教えません。
「では、今夜ここを発つまでに、何が分かったらよさそうですか?」
旅人と一緒に、今夜の目的を確かめます。 3.1
「そして、どうなったら『今夜ここに泊まってよかった』と言えそうでしょう?」
旅人自身の成功の尺度も一緒に決めます。 3.2
「それが分かることは、あなたにとって、なぜ大切なのでしょう?」
旅の目的の奥にある意味や大切さを探ります。 3.3
「だとすると、今夜は何について話すことが、一番役に立ちそうですか?」
今夜、何に取り組むのかも二人で決めました。 3.4
この宿には、二つの大切なものがあります
コンピテンシー4・5:対話全体を支える「宿」
4:信頼と安全を育む
女将は、旅人がここまで歩いてきたこと、旅の中で身につけた力、自分なりに考えてきたことを尊重します。疲れた表情には心を寄せ、感情も考えも不安も、そのままここに置いてよいと伝わる関わりをします。女将の働きかけへの反応も、そのまま受け取ります。 4.1〜4.4
5:今ここに在り続ける
女将は地図だけではなく、目の前の旅人そのものを見ています。The Who と The What の両方を大切にし、話の進め方も旅人と選び、好奇心を持って関わり、ときには囲炉裏の音の中で沈黙を待ちます。 5.1〜5.5
第二幕 「あなたの旅を、聴かせてください」
コンピテンシー6:積極的傾聴
安心できる宿で、女将が今ここにいるからこそ、旅人は少しずつ自分の旅について語り始めます。女将は「この旅人だからこそ」の話を使い、旅人自身の言葉、感情、声や表情の変化、そして旅人が自分自身や世界をどう見ているのかに耳を澄ませます。 6.1〜6.5
必要がない限り話を遮らず、最後まで聴きます。やがて女将は、旅人の話を短く映し返します。 6.6〜6.7
「ここまでのお話を聞いていると、あなたは道に迷っているというより、『自分が本当に行きたい道を選んでいいのか』を迷っているようにも聞こえます」
第三幕 「あっ……そういうことだったのか」
コンピテンシー7:気づきを引き起こす
「あなたが本当に大切にしたいものは何でしょう?」
価値観、ニーズ、欲求、信念、感情、行動など、旅人そのものに光を当てます。 7.1
「『立ち止まってはいけない旅人』ではないとしたら、あなたはどんな旅人なのでしょう?」
The Who――「自分は何者なのか」の見方を広げます。 7.2
「今いるこの場所を、別の角度から見たら、どんな場所に見えますか?」
The What――状況についての見方を広げます。 7.3
さらに、望む結果に向けて新しい可能性を探索し、女将の観察や直感も正解にせず、旅人自身の探索へ返します。質問は一度に一つ、短く明快に。そして対話の中心で話しているのは、女将ではなく旅人です。 7.4〜7.8
「私は、正しい道を探していたんじゃない。自分で選んだ道を歩いていいと思いたかったんだ。」
聴く【6】⇄ 気づく【7】。 夜が更けるまで、その往復が続きます。
最終幕 「では、そろそろ出発ですね」
コンピテンシー8:クライアントの成長を促進する
朝になりました。女将は、まず昨夜の目的に戻り、どこまで前進したかを確かめます。 8.1
The Who の学び、The What の学びを言葉にし、それをこれからどう活かすかを考えます。 8.2〜8.4
宿を出た後の思考・内省・行動をともにデザインし、使える資源や支援、障壁、そして自分に合ったアカウンタビリティの方法を考えます。 8.5〜8.7
女将は旅人の進歩と学びを祝福し、最後の終わり方まで旅人と一緒に決めます。 8.8〜8.9
「もう地図はいりません。今度は、自分で道を選んで歩いてみます」
女将は玄関まで見送りました。「いってらっしゃい。また迷ったら、いつでもお立ち寄りください」
この物語を一枚で覚えるなら
目的を一緒につくる
対話全体を支える宿
それを持ってどこへ行く?
つまり、3で宿に迎え入れ、4・5の宿でもてなし、6で旅を聴き、7で旅人が自分を発見し、8で新しい旅へ送り出す。
そして旅人が持って帰る大切なお土産は、「何をすればいいか(The What)」だけではなく、「私は何者なのか(The Who)」についての新しい理解です。
この教材について
本ページは、PCCマーカー3〜8の理解・学習を目的として、一夜の宿「旅籠PCC」という比喩で独自に構成した学習教材です。ICF公式の教材・図解ではありません。
構想・監修:油井秀人
文章・図解制作支援:ChatGPT(OpenAI)
